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読書会「おもしろ本棚」のメンバーが、思い思いに「本」「映画」「モノ」「コト」を素顔で語ります☆

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おもしろ本棚 Ver.2 <よりみち篇>
「おも本」メンバーが、本・映画・ドラマなどなど、熱く思い入れを語る<よりみち篇>。
『野火』
nobi

●新潮文庫: こちら

今からどのくらい前のことだろうか。
下北沢の本多劇場で、加藤健一の独り舞台『審判』を観た。
第二次世界大戦のヨーロッパ戦線で、ドイツ軍の捕虜となって地下室に監禁されたロシアの部隊が、ドイツ軍の慌しい撤退の中放置され、ふた月後に発見された時には、わずか二名の生存者はともに発狂していた、という史実をもとに書き起こされた芝居だった。
『セイムタイム・ネクストイヤー』『おかしな二人』など、ウェルメイドな翻訳劇を得意とする加藤健一の、しかしこれこそが代表作だ。
舞台は、生存者の一人が正気を保っており、軍事法廷の席から陪審員たる観客に、水も食糧もない地下室でふた月の間に何が起きたかを陳述する、という構成をとっている。

大岡昇平の『 野火』を読んだ。
読みながら、加藤健一が被告席からまっすぐこちらに語りかけてくる、あの独り舞台の名状しがたく張り詰めた空気と、地下室の隅で身体を前後に揺らしながら、狂気という彼岸へ向かってゆくもう一人の将校の姿が、レイテ島の野火を背景に、たった今見ているかのように生々しく立ち上がってきた。


フィリピン・レイテ島。
肺病持ちの主人公は、武器弾薬はおろか医薬品も食糧もない日本軍から、数本の芋だけを持たされて放逐される。
艦砲射撃の音が轟き、どこからか不可解な野火の上がるジャングルで、彼は自分が生きているか死んでいるかもわからなくなるような極限を彷徨う。

インテリであるらしい主人公は、観念的な死の世界に向けてゆっくりと歩もうとするが、散り散りになった味方兵士と邂逅しては、生、つまり飢餓と相互不信と帰還の困難という生々しい現実に引き戻されることを繰り返す。
生と同様、主人公の手を離れたはずの銃や手榴弾までも、結局彼の元に戻ってくるのだ。

彼は死ねない。
打ち捨てられた集落で芋畑を見つけ、教会のある村で一握りの塩を得てしまう。(彼はここで、ある決定的な代償を払うことになる。)
助かろうと投降を決意し、米軍車両を待ち受けるも、もろ手を挙げて降参の意思表示をした別の兵士が目の前で撃たれ、それも叶わなくなる。
ならばどうやって生きろというのか。

いつか塩も尽き、死と生の間いの昏い淵で彼は、紫色に膨れ上がり腐臭を放つ兵士の腐乱死体と、たった今死んだ者の新鮮な屍、その痩せた左腕を見比べるようになる。


『野火』が、塚本晋也の手で映画化されたと聞き、またそれが凄まじい映像であるとの評判を耳にして、その前に読んでおくべきだろうと思い、手にとった。
(『鉄男』を撮った塚本が!という驚きが、今も消えない。)
「神に栄えあれ」と結んだ大岡の作品を、彼はどう映像化したのだろうか。
リリー・フランキーが演じたのは、丘の上で「あは、あは」と笑っていた、あの将校ではなかろうか。
そういう興味は今も募り続けるが、私はその映画を、たぶんしばらくは観ないだろうと思う。

加藤健一の『審判』は、実際に起きたできごとを元に、英国人バリー・コリンズが脚本化した物語だが、地下室で発見された二名の生存者は、きちんとした食事を与えられ、その後、ある配慮から両名とも射殺されたそうだ。

●44ヨシモト mixi → コチラ


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テーマ:書評 - ジャンル:小説・文学

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