♪おすすめ Blog

カテゴリ

最新コメント

Link

ブックオフオンライン【PC・携帯共通】

このブログをリンクに追加する

プロフィール

おもしろ本棚

Author:おもしろ本棚
読書会「おもしろ本棚」のメンバーが、思い思いに「本」「映画」「モノ」「コト」を素顔で語ります☆

検索フォーム

月別アーカイブ

QRコード

QR

おもしろ本棚 Ver.2 <よりみち篇>
「おも本」メンバーが、本・映画・ドラマなどなど、熱く思い入れを語る<よりみち篇>。
池澤夏樹『アトミック・ボックス』(毎日新聞社)
アトミック・ボックスアトミック・ボックス
(2014/02/04)
池澤 夏樹

商品詳細を見る


東日本大震災にともなう福島第一原子力発電所の事故以降、多くの作家がそれぞれのスタンスで原発問題をテーマにした作品を発表しています。池澤夏樹も、ついこの間、『双頭の船』で、被災者と死者たちとの対話をファンタジーの形を借りて描いたばかりです。そして、今回の『アトミック・ボックス』――前作とはまったく異なったティストのエンタテインメント、ミステリ風味のポリティカル・フィクションですが、そこはさすが池澤夏樹、底流には彼が常に抱いている現代日本への危機感が流れています。僕にとっての、今年上半期ベストワンです。



本作品の二つのテーマ=読みどころを端的に表す古語が登場します。「しほもかなひぬ」と「あさぼらけ」が、それ。

前者「しほもかなひぬ」は、ご存知のとおり、『万葉集』に載る額田王の歌「熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今はこぎいでな」よりの言葉。作中では、ヒロイン美汐が、泳ぐ前に唱えるおまじないとして多出しますが、それはただ単に海で泳ぐという行為だけでなく、およそすべとの危機に立ち向かうその瞬間に、彼女を鼓舞し、一歩を踏み出させる言葉でもあるのです。

漁師をしていた父から死を前に託されたCDを携えて、一人、瀬戸内海の小島から東京をめざす美汐。そこに記録された国家的機密の漏洩を恐れ、美汐の行方を追う公安警察。

本作品の面白さの一つは、この古典的とも言える逃げる者と追う者のチェイサー・ゲームにあります。ヒロインが、好むと好まざるとにかかわらず巻き込まれた逃亡劇。圧倒的組織力と捜査能力を駆使し、冤罪を仕立ててまで「たかが女ひとり」を追う国家権力。逃げ続けるヒロインを支えるものは、彼女みずからの勇気とわずかな幸運。そして、「警察よりもあんたの言うことを信用する」性別・年齢を越えた多くの友だちたち。荒唐無稽におちいることのない、現実的な逃亡劇ゆえに、手に汗握るエンタテインメントとしての魅力全開です。

そして、もう一つのキーワード。――池澤夏樹が、この作品で言いたかった本当の恐怖が、コードネーム「あさぼらけ」の国家的極秘プロジェクト、原子爆弾製造計画の実態でしょう。

美汐の父、耕三は若い頃、その工学的才能を認められて国家的プロジェクトにリクルートされ、極秘で進められていた原爆製造計画のスタッフになります。それは、今からほんの30年ほど前、1980年代のこと。日米同盟を後ろ盾に、アメリカの核の傘の下でみずからは決して「核」を持たないとする日本政府とそれを信じ込んでいた日本人。その中にあって、万が一にもアメリカとの関係が崩れ去った時のために、「核を持つのではなく、いつでも作ることができる準備」だけはしておこうと考えた政治家がいました(海軍出身で今は95歳くらいの高齢、80年代に首相だった5文字の姓名、といえばモデルが誰だかはすぐにピンときますよね)。しかし、順調に進んでいた計画はアメリカ側に漏れ、絶対的な圧力で頓挫します。プロジェクトの解散後、関係者抹殺の危機を感じ取った耕三は、計画の一端をデータ化し、それを保険にしてひっそりと生きてきたのです。

秘密は墓場まで持っていく――妻にも娘の美汐にも秘密にしていた耕三が、それに疑問を抱くことになるのは、自身が胎内被爆者であった事実を知ったことと、福島第一原発の事故が原因でした。秘密を託され、加えて公表するか否かまでを託された美汐は、その決断をつけるため、東京に住む「あさぼらけ」計画の首謀者に会おうと、一人夜の海に泳ぎだしたのでした。

必死の逃亡を続け「現在」を生きる美汐。矜持と怖れを持って原爆製造に携わった「過去」を持つ耕三。親子二人の「過去」と「現在」は、やがて東京での対決で一つの輪に完結します。しかし、瀕死の状態でベッドに繋がれた老政治家との対話で明らかになる、「あさぼらけ」計画のもう一つの秘密。国是に反し密かに原爆製造をしていたことが明らかになっただけでも歴史を揺るがす大事件ですが、最後の最後で明らかになる秘密は、ある意味でそれ以上に、日本という国家の存在を土台から覆しかねないものでした(ここでは書けないからぜひ読んでみてくださいね)。

この間読んだ『キアロスクーロ』もそうでしたが、これほど事故の危機が叫ばれ、多くの国民が反対しているのにもかかわらず、政府が頑として続けていく原子力発電。それは、ただ単に既得権やお金の問題だけなのでしょうか? 原発から生まれるプルトニウムが核兵器=原子爆弾の製造になくてはならない原料だという事実を、僕たちはあらためて認識しておく必要があるでしょう。

スポンサーサイト

テーマ:書評 - ジャンル:小説・文学

コメント

コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


トラックバック
トラックバック URL
http://marmadays.blog2.fc2.com/tb.php/731-75fa26fc
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)