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読書会「おもしろ本棚」のメンバーが、思い思いに「本」「映画」「モノ」「コト」を素顔で語ります☆

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おもしろ本棚 Ver.2 <よりみち篇>
「おも本」メンバーが、本・映画・ドラマなどなど、熱く思い入れを語る<よりみち篇>。
『徐葆光の見た琉球』
年末に市川崑の『東京オリンピック』を観た映画館で、おもしろそうなチラシを見つけた。
『徐葆光が見た琉球 ー冊封と琉球』。(映画公式サイト) 

          

ドキュメンタリ映画のようだ。
近くの映画館で限定公開しているそうなので、この種の話を共におもしろがれる格好の相棒と一緒に観に行くことにした。



「冊封体制(さくほうたいせい)」または「冊封使(さっぽうし)」という言葉を知ったのは、数年前に観たNHKのドキュメンタリ『中国文明の謎』――中井貴一がピンク色のズボン姿で中国各地の遺跡を案内した、あのシリーズだったと思う。
(それ以来、我が家では佐田啓二の息子のことを「ピンクパンツ」と呼んでいる。ま、今日の話題とはそれほど関係ないな。)

冊封とは、巨大な中華帝国を取り巻く朝鮮や契丹、ヴェトナムなんかの小国が、中国に朝貢して庇護してもらうという、かつての強者と弱者の外交関係だ。
日本は微妙な立場ながらこの冊封関係には入らず、琉球王国は日本に従属しながらも、同時に中国に冊封されるというダブルスタンダードな道を選ばざるを得なかった。
「冊封使」は、中国皇帝がその国の国王を任命する、という名目で派遣されてきて、期間限定でその国に滞在する、皇帝の代理人たる役人のこと。
琉球王国は、14世紀以降、ヤマトに完全吸収されるまでに合計23回、この冊封使を迎えているそうだ。

そのうちの一人、1719年に海を越えてやってきたのが、この映画の主人公、徐葆光(じょほーこー)だ。
さて、彼はどんな人だったのでしょう?
・・・というのがこの映画の導入部分だったが、そもそもどうして徐葆光をここで紹介しているのか?の説明は、後半に詳しく語られる。
観客は、まず何はともあれ、徐葆光という人がどこで生まれ、どんな風に出世して、どういういきさつで琉球にやってきたかを知らされることになる。

ここで案内役を務めるのが、上海からやってきた若い研究者、鄔揚華(う・やんふぁ/「う」はウーロン茶の「烏」の右におおざとをくっつけた字)という女性。
彼女は京都の大学で葛飾北斎の『琉球八景』という画と出会った。
そこには、琉球の地の雪景色が描かれており、琉球を訪れたことのない北斎は、冊封使・周煌が描いた絵図「中山(ちゅうざん)八景」を基に自分で想像して彩色を施したそうだが、ではその冊封使とは何だろう?と調べ始めて、徐葆光を知ったということらしい。

鄔揚華は中国で調査した上で、徐葆光の墓所や没年を明らかにし、各地の図書館を尋ね回って、とうとう部分的にしか現存していないと言われていた彼の著作『奉使琉球詩』全三巻を、呉県と蘇州の図書館で発見する。
(中国で最も大きな上海の図書館には検索カードのみが遺されており、原本は文化大革命の政治的大混乱のさなかに失われてしまったようだ。)
そして、行政に掛け合って基金のようなものを設立し、彼の生まれ育った町に、徐葆光の記念モニュメントまで設計して建ててしまう。
なんという情熱! なんというバイタリティ!!

しかしその徐葆光という人について、何ゆえそこまで追究して、あまつさえこのように映画まで作ってしまったのか?

・・・これは、私のようなヤマトの人間には想像しにくいことだ。
琉球、そして沖縄は、その位置するところ、国のボリュウム、資源などいろいろな要因で、一つのクニとして生き延びてゆくのが歴史を通して大変難しかったはずだ。
中国との冊封関係とヤマトへの帰属を両立させ、微妙なバランスを保ち続けることは、その最たるものだと思う。
そして、薩摩からは虐げられ、太平洋戦争ではヤマトの防波堤であるかのように直接戦場となり、住民は虐殺され、土地は焦土となり、一旦はアメリカがご主人様となった。
こうした過程で、琉球独自の文化は何度も破壊され、焼かれ、失なわれて、もはや復元が難しいものが多数あるらしい。
これら失われてしまった古の琉球の文化を、仔細に観察して資料に遺していたのが、18世紀の冊封使・徐葆光だったというわけだ。
彼は琉球に遣いした時の報告書を時の皇帝に献上すると同時に、滞在中に作った多くの詩を遺した。
それらは、琉球王宮の儀式の様子、高官たちとの交流や、自然の風景、鳥や虫や魚、饗応の膳の豪華さ、美味い酒、披露された歌舞音曲、建物のようす、島の人々の服装や髪形など、生き生きとした描写に満ち溢れていた。

これまで部分的にしか見つかっていなかった徐葆光の著作を探し出すことができれば、琉球文化の復元・復興に、どんなにか役立てられることだろう!
ウ揚華および彼女の仲間たちは、その冒険に挑んだのだ。
――徐葆光が愛した琉球に、自分たちが愛している沖縄のルーツに、もっともっと光を当てよう!
この映画は、彼らの冒険の記録なのだと思う。
沖縄で活躍する歴史家や舞踊や音楽などの伝承者が次々に登場し、例えば琉球芸能の代表格として有名な「組踊(くみおどり)」もまさに徐葆光の前で初演されたらしく、その復元にチャレンジするようすがスクリーンに映し出される。
(一番力が入っているように見えるのが、琉球料理の復元であったことが微笑ましい。
どうやらウ揚華自身も、相当な料理家であるようだ。)

ウ揚華は、一方で、自身が中国の図書館で発見した『奉使琉球詩』の琉球本土が描かれている「舶中集」の部分を日本語に訳出し、註を施して、『「徐葆光 奉使琉球史 舶中集」詳解』として世に出した。
徐葆光が作った197首の漢詩と対訳、原注、訳注、そして『奉使琉球史 舶中集』の原寸大の影印(原本の写真複製)を収録したもので、沖縄の「出版舎Mugen」という出版社が刊行している。
せっかくだからそいつも読んでみるか、と思ったが、地元の図書館には所蔵がなかった。
ならば買ってしまおうと、普段ちっとも本を買わない私のせめてもの罪滅ぼしにとネットで注文したところ、翌々日にはあっけなく自宅に届いてしまった。
・・・せっかくだから、もうちょっと苦労して手に入った方が、気分が盛り上がるのになぁ。(笑)

封を開けると、たじろくほどの分厚さだった。
そして、手に取ったときのカサカサとした紙の感触と、本の腹を叩いたときの、ボンという鈍い音。
ああ、これだ。
作り手が苦労して、けれど最高に愉しみながら作った一冊の本。
「みそら社」という集団が装丁を施しているそうだが、日頃図書館の透明カバーのかかった本ばかり手にしている自分にとって、久しぶりに「本を持つ」充実感を与えてくれる、そんな存在感のある本だ。

暇をみて、少しずつページを繰っている。
酒は外交の友というわけか、酒に関する詩が多く目に留まる。
変換不能なため、和訳部分だけ一つ。

うまい酒と笙の演奏でお客を楽しませる
中山(琉球)のいい酒は醍醐のようにおいしい
帰ろうとする時、すでに千日も眠ってしまうことを恐れるほど飲んだ
馬に乗って帰ろうとする時、さらに一壺勧められた
ムクゲをもぎ取って、改めて飲むことにした
甘露を受け取るのに仙人の持っている器は必要ない
うまい酒は舌で味わい、すぐには飲み込まない
帰りの荷物と船がないことを、あえて願いたい

別の詩で、ふと訪れてみた民家で太平山(=宮古島)の酒を勧められ飲んだ、といったものもあり、また「歓」という愛人を詠ったもの、琉球の女性が手に彫る刺青のようすや、本人はすっかり虎のつもりでいるヤモリのユーモラスな詩など、和訳を読んでいるだけでもけっこう愉しい。
中には「雪の朝」と題する詩もあったりして、葛飾北斎の誤解も、もしかしたら誤解でない可能性もあるかもしれない。
いやそれにしても、面白い本を手に入れてしまった。

徐葆光と彼の記録した琉球をここまでしておいかけるウ揚華氏の原動力は何なのだろうか。
彼について、古い記録では、「長身玉立、儀度秀偉」「儀容端偉、言弁敏妙」などとあるらしく、つまり教養に溢れ優秀であっただけでなく、容姿もなかなかだったことが窺い知れる。
琉球に重要な痕跡を残した歴史上の眉目秀麗な外交官に、彼女は恐らく、時空を超えて恋をしたのだ。
歴史学徒にとって、歴史の中で永遠の恋人と出逢うこと以上に幸福なことなどあるだろうか?
わかるよ。すごくわかる。
・・・・と、私は独り勝手にそう解釈したわけだが。

ともあれ、私はウ揚華の情熱に心底感服する。
これからも彼女の研究は続くだろう。
徐葆光が著した公文書『中山伝信録』と、私的な詩集『奉使琉球詩』の比較など、やりたいことは山ほどあるはずだ。
沖縄に居住している彼女の研究の新しいニュースはなかなか東京までは入ってこないかもしれないが、これからも気に留めておこうと思う。
新年早々、いい映画、そしていい書物と出逢えて、私もとても幸せだ。

書籍:『「徐葆光 奉使琉球史 舶中集」詳解』 (ジュンク堂にリンク)

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