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おもしろ本棚 Ver.2 <よりみち篇>
「おも本」メンバーが、本・映画・ドラマなどなど、熱く思い入れを語る<よりみち篇>。
『イトウの恋』
イトウの恋イトウの恋
(2005/03/05)
中島 京子

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講談社文庫

***
ある日新聞に 『イトウの恋』 という本の広告を見つけた瞬間、イザベラ・バードの
『日本奥地紀行』 の読者であった私は、即座に、彼女の通訳を務めた日本人、イトウを連想した。
その広告を読んでみると、なるほど平凡な名前の女性作家の手によるその本は、
件のイトウが、旅のさなかに女主人であるイザベラ・バードに想いを寄せたという
仮想小説であるらしかった。
歴史に 「if」 をつけてお手軽な手段で小説を書く作家というのはけっこういるんだろうな、
くらいの気持ちで、その広告はそのまま見送ってしまった。


後年、中島京子が、出稼ぎの家政婦の視点から、戦前戦中の山形と東京での暮らし
(、そして奉公先の 「奥様」 の秘密) を描いた 『小さいおうち』 を読んだ折、
過去の作品リストにあの 『イトウの恋』 が並んでいることに驚いた。
中島京子が書いていたのか!
ならば信頼できる。 いつか読んでみよう。


ヴィクトリア朝期の紀行作家イザベラ・バードは、北米やアジアの各地を訪れ、
その都度詳細な旅の記録を著し、本国ではベストセラー作家の一人だった。
我が国では、日本、韓国、中国、そしてロッキー山脈の旅が翻訳されているようだが、
東京、日光から東北地方、そして北海道のアイヌを訪ねた 『日本奥地紀行』は、
ダイジェストまで含めたさまざまな版が今現在も入手可能で、つい最近、
平凡社東洋文庫から、詳細な註が施され、バードが当時参照したはずの地図や
アイヌ語の語彙集などのついた完訳版全4巻が発刊されたばかりだ。  (※末尾参照)

日本での彼女は、ただ一人の通訳を伴っただけで、駄馬に乗って北海道まで渡り、
夜は着いた先の旅籠や民家の一部屋で、折り畳み式の簡易ベッドを広げて眠り、
その場で手に入る食糧を食べ (時には 「肉エキス」 なる携行食に頼ったようだ)、
蓑や油紙で雨をよけ、誰も通ったことのない道を選んで進んだ。
この旅に同行したのが、10代の青年 「イトウ」である。

バードの著作にも頻繁どころではない回数登場し、彼女いわく、勉強熱心で気が利くが、
批判精神が旺盛で、人夫や村人に対する態度には問題があり、厳しい躾が必要である、
という評価をしていたようだ。

さてこの 「イトウ」、日本のフリー通訳の先駆けとなった実在の人物の手記が、
続きが途切れた状態で横浜の中学教師の実家の蔵から発見され、ヤル気のない郷土部の
生徒とコンビでその続きを探し回るうちに、イトウの曾孫であるかもしれない
バイオレンス劇画の原作家にたどり着き、作家は作家で、少しずつイトウの手記を
読みながら、この冴えない師弟に自分のルーツ探しをゆだね始める・・・というのが、
小説『イトウの恋』 の構成だ。

中島京子を知らなければ、このプロットを聞いただけでは積極的に読む気にはならな
かっただろう。
しかし、作者はまだ完訳版の出ていなかった 『日本奥地紀行』 を詳細に読み込み、
イトウの人となりを想像して (バード描くところのイトウは、もちろん褒めている
場面も多数あるが、辛辣な描写もかなり多い)、旅の道中で彼の心中にどんな想いが
生まれたか、翻ってバードはどんな言葉でイトウに対したか、どんな表情を浮かべたのかを、
イトウの手記の形を借りて、バードの読者であってもさもありなんと納得できる描写でつないでゆく。
これらの部分は、とても成功していると思う。

泥酔した女を目にし、自分の母親の事を思い出して泣きたい気持ちで面を伏せる
イトウに対し、バードがこう言う場面が好きだ。
「おまえがいま、誰かの肩の上で泣きたいなら、私が肩を貸せる唯一の存在だ。
なぜなら私たちは、二人きりで旅をしているのだから」
イザベラ・バードという人は、東洋人の使用人に、
実際にこういうことを言える女性ではなかったろうか。

そして、そのバードにしても、アイヌに対して抜きがたい偏見を持っていたことに対し、
中島京子はアイヌ青年にこうも言わせている。
「あの人にとって俺はただの 『心優しい原住民』 だ。 あんたは違う。
俺にはそれが羨ましい」
バードはアイヌを 「気高い人々」 と表現しながらも、あくまでも 「未開人」 が
持っているプリミティヴな美に魅せられていたのだということは、その著作を読めば
誰にでも了解できる。
勿論それは、その時代には如何ともしがたいことではあるのだけれど。

作品の終わらせ方には不満が残るし、史料からイトウを追う現代の三人組の部分は
やや冗長に感じるが、その足跡のほとんど残っていない幻の人物 「イトウ」 と
イザベラ・バードの旅にもう一度立ち会うことができて、幸福な時間を過ごすことができた。

※『日本奥地紀行』について → こちら

☆44ヨシモトmixi日記 → ここ♪
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テーマ:書評 - ジャンル:小説・文学

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