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おもしろ本棚 Ver.2 <よりみち篇>
「おも本」メンバーが、本・映画・ドラマなどなど、熱く思い入れを語る<よりみち篇>。
『改宗者クルチ・アリ』
改宗者クルチ・アリ―教会からモスクへ改宗者クルチ・アリ―教会からモスクへ
(2010/04/26)
O.N.ギュルメン

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藤原書店HP

16世紀、スレイマーン大帝のもとで繁栄を謳歌していたオスマン帝国。
地中海を挟んで、ヴェネツィア、フランス、スペイン、そして東方にはシャー・タフマスプの君臨するペルシャ帝国と激しくぶつかり合うこの大帝国の戦力の主軸は、陸は改宗奴隷イェニチェリ、海は海賊あがりの男たちだった。

  
イタリア南部の村でアルジェリアの海賊に捕らわれ、奴隷としてガレー船の漕ぎ手となった少年は、やがてムスリムに改宗させられ、船長に抜擢される。
かつて地中海を震え上がらせた海賊で、今はオスマン帝国最強の提督に登り詰めたバルバロス (有名な 「赤毛のバルバロッサ」 だ) に可愛がられ、やがてその後継者として数々の闘いに参戦、アルジェリアの太守となる。
レパントの海戦で全軍殲滅の危機からかろうじて帝国を救った栄誉から、時のスルタンより、地中海全島を統べる大提督、クルチ(剣)・アリ・パシャの称号を賜り、「スルタンの剣」 として、大宰相ソコッルとともに帝国の戦力再興に尽力する・・・。

プロヴァンスの貴族で、クルチ・アリと同様、海賊に襲われて奴隷となり、縁あって彼の僕となり養子となったアリコが語るクルチ・アリの生涯は、栄光の陰で苦渋と失望と屈辱が繰り返される厳しいものであった。
ガレー船の血なまぐさい戦闘、理不尽に満ちた戦後処理、そして何より、オスマン宮廷内部の陰鬱な政争と果ての殺し合い。 (ここに描かれる宮廷人は、みな人間以下だ!)
晩年のクルチ・アリが自らのモスクを建てるべく宮廷に諮ったところ、返ってきた答えは、「スルタンの永代所有を司る役所には割り当てられる土地はない。海の覇者なる者はその修行僧の宿坊を海に建てるべし」 というものであった。

しかし物語は、どこか詩的な追想の形をとっている。
クルチ・アリが探し続けている、カラブリア生まれの九本指の僧侶、そしてアリコの追想にくり返し現れる、今はどこかで奴隷になっているかもしれない初恋の少女、死にゆく大提督が息子に託した言葉の真意。
アリコは少年のころ実の兄に鼻を削がれ、闘いで左耳を失くし、暗殺者に中指を吹き飛ばされ、砲撃で右足を失うというように、徐々にその肉体を欠損させてゆくが、クルチ・アリを、父として、海の男として慕い続けるさまは、ますます研ぎ澄まされてゆくようだ。

――もしや……アリコよ……あの別嬪を、あの生娘を娶りたいか?
――「あんたが彼女と結婚すればいい!」 と俺は叫んだ。 「あんたは手も足もちゃんとある。 彼女を娶りなさい!提督の妻に眼をつけることなど誰もできない」
――雲間に見えては消える太陽の弱い光の下で、俺はエミリアの、ヴェネツィア人のハッサンは提督の介添え人として、イマムの前に並んだ。 必要な所作が行われた後で、「アッラーのほかに神なし」の文句を何とか発音して、俺たち改宗者の中に加わったエミリアは、スルタン・セリムへの敬意の印としてセリメという名をもらった。 一緒に過ごした三十五年間のうちで、特にあの日、俺、びっこのアリは、提督のアリと心も身体もひとつであることを感じたのだった。


物語の語り手アリコは、作者オスマン・ネジミ・ギュルメンの分身であることに間違いない。
オスマーン朝、あの狂ったような大帝国の、光と影をともに担った偉大な改宗者の生涯を、その末裔として、誇りと畏れをもって描こうとしたのだと思う。
宮廷から 「与える土地なし」 とあしらわれた大提督は、ならば言葉どおり海のただ中に神殿を築いてやると、今の新市街、トプハーネの付近に出島を築き、海を望む頑丈なモスクを建設した。
その土地は、今は埋め立てられて地続きとなっているようだが、イスタンブルを訪れる機会があったらぜひここを詣でて、16世紀の偉大な海の男を偲んでみたいと思った。


著者ギュルメンは、トルコ語とフランス語の二カ国語で執筆する作者だという。
こちらの原書はフランス語で書かれたものの、そのトルコ語訳のできが良くなかったため、著者自らがトルコ語で書きおろしたそうだ。
2010年に藤原書店から刊行された日本語訳は、後者のトルコ語版を底本にしているそうだが、和久井路子の和訳は極めて読み難く、この本を読了するのに何週間もかかったことだ。
(オルハン・パムクの翻訳でさんざん苦しめられた読者も多かろう。)
藤原書店がなにゆえ和久井路子の訳本を出し続けるのか理解に苦しむところだが、ここはひとつ、どこか酔狂な版元が、フランス語の元版からの和訳にチャレンジしてくれないものだろうか。
 
☆44ヨシモトmixi日記 → こちらへ☆
 
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テーマ:書評 - ジャンル:小説・文学

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