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読書会「おもしろ本棚」のメンバーが、思い思いに「本」「映画」「モノ」「コト」を素顔で語ります☆

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おもしろ本棚 Ver.2 <よりみち篇>
「おも本」メンバーが、本・映画・ドラマなどなど、熱く思い入れを語る<よりみち篇>。
『火山のふもとで』
火山のふもとで火山のふもとで
(2012/09/28)
松家 仁之

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この本を読む前日、私は友人と、ひと気のない軽井沢のホテルに滞在し、暖炉の横で
昔の古い写真集をじっくりと眺めたりしたあと、東京に戻ってきて、図書館から届い
たばかりの本書を手に取った。
物語の舞台はホテルからそのまま道路を北上した先、かつての軽便鉄道の駅も目の前
というロケーションだったこともあり、この巡り合わせには驚くばかりだった。

松家仁之(まさし)の 『火山のふもとで』 。
54歳の作家のデビュー作だという。
 
 
1982年、大学を出たばかりの主人公が、老建築家の下、避暑地に建てられた仕事場で
修業に励む一夏の物語。
高名なその建築家は、フランク・ロイド・ライトの晩年の弟子でありながら、和文化
とモダニズムを調和させたスタイルで、周りの風景に馴染む建物を多く手掛けてい
る。
春、東京の建築事務所で、そして夏は軽井沢の北、浅間山のふもとにある 「夏の
家」 の作業場で、主人公が、師と兄弟子らの仕事をつぶさに見ながら学んでいくこ
とどもを、作者は静かに、ていねいに描いてゆく。
老建築家は、これまで大規模なコンペにはほとんど参加してこなかったのに、その夏
どういうわけか、国立現代図書館のコンペに参加する決断をした。
ここから、物語はかすかに、ある種のかなしみの気配を漂わせ始める。

建築ファンならだれでも知っている、F・L・ライトの作品群や数々のスキャンダル、
アスプルンドのストックホルム市立図書館や 「森の墓地」 。
浅間山の別荘地に住まう多様な野鳥たち、軽便鉄道の時代のノスタルジックな思い
出。
英国のオートバイ、ヴィンセント・ブラック・シャドウ、ウィンザーのコムバック
チェア、ピエロ・デッラ・フランチェスカやマーク・ロスコの絵画、シューベルトの
ピアノソナタ21番など、登場するこれらを一つ一つ調べながら作品世界を共有しよう
とする読者も多いことだろう。
こうした小道具の多用をペダンチックだと嫌う向きもあろうが、私はこの作品に関し
ては不快に思わなかった。
少し詳しい人なら、登場する建築家や作家、画家らの、人物と作品のモデル探しも愉
しいに違いない。


しかしやはり、この物語の魅力の多くの部分は、老建築家が自らの設計に丹念に埋め
込んだ、暮らし方、生き方についての揺るぎない考えにある。

「細部と全体は同時に成り立ってゆくものなんだ。 受精卵が細胞分裂をくり返して
ヒトのかたちになるまでを見たことがあるかい」
「指なんていうのは、びっくりするくらい早い段階でできあがる。 胎児はその指で
ほっぺたを掻いたりもするんだ。 開いたり閉じたり、生まれる何か月も前から指を
動かしている。 建築の細部というのは胎児の指と同じで、主従関係の従ではないん
だよ。 指は胎児が世界に触れる先端で、指で世界を知り、指が世界をつくる。 椅子
は指のようなものなんだ。 椅子をデザインしているうちに、空間の全体が見えてく
ることだってある」

こうした考えは、建築作品にだけでなく、事務所や夏の家の運営、薪の焚き方、製図
用のエンピツの削り方、飲み物食べ物にいたる日々の営みにもゆきわたっている。
きめ細かく、細部をゆるがせにしない、静かで、厳かな、温かい日々。
若い主人公は、師の思想に触れながら、すべての音に耳を傾け、細かい部分に目を凝
らしながら、自分自身の世界を深めてゆく。
この小説は、第一に、優れたビルドゥングス・ロマンであり、美術、建築、食など、
暮らしを慈しむための指南書という面も持っている。
そしてもちろん、恋愛小説としても読める。


バブル崩壊の少し後、『マディソン郡の橋』 という小説が売れに売れた折、筑紫哲
也が 「手に取るな やはり野に置け蓮華草」 という句を引いて、この本もかくある
べきではなかったかと、残念そうに語ったことがあった。
そんなことを思い出しつつ、けれど大切な友人には、小声でこの本をお薦めしておき
たいと思った。
 
★44ヨシモトmixi日記 → コチラ
 
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テーマ:書評 - ジャンル:小説・文学

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