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読書会「おもしろ本棚」のメンバーが、思い思いに「本」「映画」「モノ」「コト」を素顔で語ります☆

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おもしろ本棚 Ver.2 <よりみち篇>
「おも本」メンバーが、本・映画・ドラマなどなど、熱く思い入れを語る<よりみち篇>。
柳澤健『1974年のサマークリスマス』(集英社、2016年)


今でもはっきりと覚えています。

1974年8月25日、第一回目のサマークリスマス当日。ぼくは19歳の大学1年生。近づいている台風の影響で風雨強まる中、急遽、代々木公園から移動したTBSのスタジオのむせ返るような人いきれと熱気。ジーンズをちょん切ったホットパンツから伸びたユーミンの長い脚。石川セリの気だるい歌声。妖艶な中川梨絵。おなじみパーカー姿の林美雄。そして、その場に集まった名前も知らない仲間たちとの連帯感。同じ時代を生きたぼくとぼくらと彼女たちのつかの間の祝祭……。


TBSラジオの深夜放送〈パック・イン・ミュージック〉で、木曜日の深夜3時から5時まで、つまり金曜日未明の2時間を担当した林美雄のことを知っている人はきわめて少ないと思います。〈パック〉の看板スター、野沢那智と白石冬美の第一部を受けて始まる、3時からの金曜パック第二部、通称〈林パック〉を本格的に聴き始めたのは浪人生活が始まった頃だったはず。一発で圧倒されました。林美雄が取り上げ、熱く語る映画や音楽、社会問題。きわめて偏向した話題に驚きながらも、特にその映画紹介に引き込まれていきました。

「いいものはいい」。群れることを嫌い、自分の感性を信じ、既成概念に媚びることのない林美雄は、もともと映画好きだったぼくに、それまで観たこともなかった日活ニューアクションやロマンポルノ、東映実録路線、ATGの世界を教えてくれたのです。邦画の地平線が一気に広がりました。目からウロコが落ちる、とはこういうことを指して言うのでしょう。情報誌『ぴあ』も未刊の時代、林美雄の情報だけを頼りに、都内の名画座を回る日々が始まりました。銀座並木座、池袋文芸地下、飯田橋佳作座、高田馬場パール座、テアトル新宿、新宿昭和館地下……。めくるめく映画体験をはがきに書いてせっせと林美雄に伝え、また新しい情報を仕入れる、その至福のローテション。しかし、大学生になった1974年の夏、突然に〈林パック〉は終了することになってしまいました(1年後に、今度は第一部として復帰するのですが、そちらはどうも……)。

およそ評伝とか伝記は、例えば歴史に名を残す発見や発明をした人物とか、例えば命がけの大冒険を成し遂げた人物とか、あるいは万人を魅了する芸術作品を創り上げた人物を対象とするものと相場が決まっていますね。本書の著者、柳澤健は主にプロレスラーを素材とするルポやドキュメントを上梓してきたノンフィクション作家。確かにその分野では評価が高い作品が多い。でも、生年を調べてみると、とてもリアルタイムで〈林パック〉を聴いていたとは思えません。聴いていたとしてもまだ幼くて、放送内容を理解することは叶わなかったはず。そんな人間に〈林パック〉について何が書けるんだ、林美雄の何がわかっているんだ。林美雄から圧倒的な影響を受け、自らを〈林チルドレン〉と呼び合うぼくの仲間たちは、総じて本書の内容に懐疑的で、刊行には否定的でした。そう、実際に本書を読むまでは……。

本書は、林美雄という一人の社員アナウンサーを狂言回しに、彼が関わった放送番組、イベントについて記録し後世に残すものであるととともに、彼が愛した映画が生まれ、俳優・監督、ミュージシャンが活躍した70年代中期そのものをも見事に描ききった同時代史でもあります。著者は、〈林パック〉の熱心な聴取者だった人たちから丁寧な聞き取りを行い(〈林チルドレン〉による顕彰グループがいくつも活動をしています。ぼくもその一つの会員)、また、音源として残っている当時の放送を聴くことで、〈林パック〉の全貌を明らかにしていきます。リアルタイム聴取者でないぶん、変な先入観や思い入れがなく、ニュートラルな視点で描かれています。レギュラー番組の〈林パック〉をはじめ、先に記した〈サマークリスマス〉(夏にだってクリスマスがあったっていいんじゃないかと、林美雄が自らの誕生日に合わせて企画したイベント。おそらくは31日に迫った最終回を前に、聴取者とのお別れの会の意味を込めていたと思います)、畢生の企画興行〈歌う銀幕スター夢の狂宴〉(75年1月19日、厚生年金会館)、山崎ハコ伝説のステージとなった〈水曜パック祭り〉(同年12月14日、TBSホール)。ちなみにこれらのイベント全てにぼくは参加しているのだ、エッヘン。こうした林美雄の陽の当たる側面だけでなく、著者はその影の部分、林美雄の心の裡にある底知れぬ深い闇も明らかにしていきます。愛し合いながらも別れ、その後も林美雄を支え続けた最初の妻Mさんのエピソード(彼女の存在については時折番組内でも語っていたのを覚えています)。先輩・同期・後輩アナウンサーの枡田論平や、宮内鎮雄、久米宏、小島一慶への嫉妬と羨望。不器用で仕事に恵まれず、持った番組も人気の出ない現実。後半ページを割いて語られるユーミンとの関係についての分析も秀逸。

ドント・トラスト・オーバー・サーティー。両親や学校の先生はもとより、ウソばかりついている政治家や金儲けに走る企業人、電車の座席でいぎたなく眠りこけるおばさんに至るまで、世の中の大人たちに不信感を持って、いつも何かに腹を立て、傲慢で不寛容だったあの頃に、林さんに出会えたことは、ぼくにとって最大の幸福だったのかも知れません。

「いいものはいいんだ」と紹介してくれたものの中にも、当然、ぼくにとっては相容れないものもありました。大成功に終わった〈歌う銀幕スター夢の狂宴〉を観た人間から、「林さん、またぜひやって下さい」と言われた際に、林美雄はこう答えたと聞いています。「人にばかり頼るなよ。今度は君がやれよ」。「いいものはいいんだ。でも、それを見つけるのは誰でもない、自分だけ。自分が探し出したいいものを大事にして、それを追いかけるんだ」。大人になっていくぼくたちに林美雄が言いたかったことは、こんな事だったのかも知れません。

ありがとう、林さん。あなたが亡くなられた歳もとうに越え、あまつさえ還暦も過ぎてしまいましたが、ぼくは一生、あなたを引きずって生きていきます。ブッブー。

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テーマ:書評 - ジャンル:小説・文学

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